4月にスコット・ウィリアムズの特別クラス on Zoom を開催するが、そのスコットのことを書きたい。
マイズナーテクニックを教える人として、スコットについてまず思い浮かぶのは、ポジティブであることだ。
クラスの雰囲気は常に前向きでポジティブな空気に溢れていた。
もちろん、皆のリピテションの技術が上がるに連れて、やりとりは激しくなっていったし、未知に対する恐怖心は誰しもが抱いていたが
「それでも前に進みたい」「自分の枠を拡げたい」「どんなことが起こってもその瞬間をフルに生きたい」「俳優としてよりエキサイティングなところに行きたい」
と、皆が高いモチベーションを持っていた。
誰かの進歩を見逃さなかったし、一人が前進すると他の者たちも触発されて変わっていった。
まるでスコットのモットー「A rising tide lifts all boats (上げ潮は全ての船を持ち上げる)」を証明するかのように。
これは、もとはアメリカの経済政策に関する格言だが、スコットの意図としては
クラス(集団)には急激に成長するタイミングがあり、皆が良い意味で影響し合っている
ということを言っている。(クラスに限らず、座組でも同じだと思う)
そういうクラスであるためには、まず他のメンバーを尊敬・尊重し、彼らのすることに好奇心を持ち、学ぼうとする姿勢が大事だ。
自分自身が研修生だったころも含めて振り返ってみると、そういう姿勢が欠けている場合、個人でも集団でも触発されて変化することが少ないように思う。
リピテションでも演技でも、他の人が前でやっているときに自分のことを考えている人は伸びないし、そんな人が多いと集団としても成長が遅い。
スコットのクラスの雰囲気がポジティブで他者への敬意や関心を持つ人たちばかりだったのは、やはりスコットの教え方によるものが大きい。
The Impulse Companyのサイトにはカンパニーとしての信念が書かれている。
まず「創造性がある俳優を育てる」という目標があり、
その俳優の要素として「工夫できる、積極的である、自負を持ってる、勇気がある、前向きである、柔軟性がある、視野が広い」に加え
「共感力がある、思慮深い、他者に対し丁寧である」といった価値観がある。
こういった価値観がはっきりと打ち出されている。
また、技術的なことでも基準が明確に提示されるので、学ぶ側にとっては学びやすい。
さもなければ、基準があいまいで生徒が教師のジャッジ(「良い」と言ったり「ダメ」と言ったり)を気にしすぎて、評価されるために努力してしまうようなことが起こってしまう。
「信念」と言うと、難しく聞こえてしまうかもしれないけれど
演劇や演じること、芸術や人を育てることへの価値観があって、そのうえに技術がある。
これは優れた指導者、コーチに共通する。
何のために演劇を、映画を、芸術を、俳優を、コーチングをやっているか。
売れる俳優を育てるという目先のことではなく、もっと大きなものに奉仕できる俳優を育てるという価値観。
それがあるから作品のために、演技のために人間性を傷つけるようなことを要求したりはありえない。
その価値観に触れるだけでも、わざわざ海外へ行って学ぶだけの意味はあると僕は思う。