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マイズナーショーケースとこれから

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Impulse Companyでのマイズナーのコースが終わった。

Term1. Living Truthfullyー瞬間瞬間、相手とやりとりする。
Term2. The Given Set of Circumstancesー「設定」がどう自分に影響するのか。そしてその「設定」のなかで相手とやりとりをする。
Term3. A State of Alivenessー戯曲に書かれた架空の人物の「設定」で相手とやりとりする。準備なしでもすぐに始められる。

最後にショーケース。
今まで積み重ねてきた技術を使い、いよいよシーンというわけだ。
それぞれの俳優が古典と現代戯曲をやるのだが、
僕は「マクベス」と、パトリック・マーバーの「クローサー」をやることになった。
現代戯曲は最初にヤスミナ・レザの「アート」をトライしたのだが、選んだシーンにモノローグがいくつかあって、会話のほうが良いということで変更した。

台本を持っても、一番だいじなのは、相手。
相手をよく見て聞いて、全部受け取るという感覚を忘れないために、ここでも少しずつ要素を付け足していき、積み重ねる。
一気に全部やろうとすると、自分がどう演技するかに意識がいってしまう。

ショーケースをやるにあたって、どういう趣向でいくのかを俳優たちで考え、スタジオ内の客席の作りや、シーンとシーンの間はどうするか等を決めていく。

誰よりも俳優たち自身が楽しみ、瞬間に生きる、激しく濃いシーンばかりになった。

コースを通してとても大事だと思ったのは、結果を求めようとしないこと。
何それ?って感じかもしれない。
結果を出すのがプロだから。

でも結果を求めてやっても、たぶん最初の1,2回はうまくいくけど、1ヶ月、あるいは半年の公演には使えない。
結果とは、たとえば「ある特定の感情」と言ってもいいかもしれない。
これを求めようとすると、思考が入ってくるし、セルフジャッジメントが入ってくる。
「こうあるべき」
「こうでなければ」
と考えると、もう全意識が自分の状態のチェックに動員されて、
受けることもできなくなるし
想像力も働かない。
その瞬間にいなくなる。

結果を求めてやってもダメだから、
準備や過程を工夫する。
どうすればその結果に近付けるか。
視点を変えるというか、
まぁ「楽しむ」「味わう」と表現する人もいるかもしれない。

自分も含めて、たいがいの俳優は結果を求めて、肩に力が入る。
「早く次をやらせてくれ」
「それでこれをやっておれの演技はどうなるんだ?」
「よし今まで学んだことを使って、やってみせるぞ!」
って。
そんなとき、俳優は意識がぜんぶ自分に向いている。
だから、スコットはそんな俳優をいなしつつ、
演劇映画今昔物語に花を咲かせつつ、
少しずつ少しずつ俳優たちに美味しいものを与えていったんだろう。
レピテションの要素を分解して細かい積み重ねをさせた。
俳優に細部に目を向けるよう導いた。
そうやってしっかり身につけた技術が、セリフを使う段階になって俳優を支えてくれる。

もうひとつは、グループ全体の成長について。
誰かが上がると、皆も上がる。
まるで潮が満ちるとボートも浮き上がるように。
他の俳優がやるのを見たいし、他のシーンも自分のと同じくらい楽しい。
こういう価値観が育ったのがショーケース全体がうまくいった理由だと思う。

コースが終わってからも俳優たちで集まってシーンワークを続けたが、
帰国しても日本でこういうことがしたい。
それには同じような価値観と技術を持つ仲間が必要だ。
ここからだ。

どこか分かる人いるだろうか?

「クローサー」に出てくるPostman’s Park。近所にあるんだけど、ショーケースが終わってしばらく経ってやっと訪れた。シティのなかにありながら静かな時間の流れている場所。他の人を救うために生命を落とした人の名前がタイルに記されている。作品を理解するために実際にその場所に行かなければならないとは思わないけどこの作品の根底にあるものがすっと腑に落ちた瞬間だった。