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マイズナーWSについて。こんなんです。

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「マイズナーのWS受けてみたい」とか「マイズナーテクニックってどんなんなん?」って聞かれることもよくあるので、僕がやっているWSについて書いてみたい。


マイズナーテクニックのベースとなるのはリピテションエクササイズ。
どういうことをするかと言うと、ペアでお互い向き合って、相手の挙動をピックアップし、たとえば「あなたは顎を触った」とか言う。
言われた人は自分のことなので「私は顎を触った」と、主語を変えて、繰り返す(リピテション)。
そしてまた「あなたは顎を触った」「私は顎を触った」と繰り返していく。
どちらかが新しいことを言いたくなるまで。

相手が言ったことを繰り返すことは難しいことじゃない。頭を使わなくてもできる。
その単純さが、俳優の思考を取り外し、より本能に近い反応が表に出てくることをしやすくする。
社会性のある、無難な反応ではなく、衝動的な反応。
観客は日常を超える瞬間を見たいのであって、ありきたりな日常をずっと見ていたいわけじゃない。
より本能に近い、あるいはその人の中と外が繋がっている様を観ると、人は共感せずにはいられない。

相手の挙動にフォーカスするのにも理由がある。「演技は相手が何をしたかで決まる」という考え方だ。
相手の挙動をベースとすることで、「うまくやりたい」「よく見せたい」「自分はどうするべきか」といった自意識から自由になりやすい。
それにより、セリフの言い方や自分の見せ方のようなことに囚われることから脱却できる。
そういったことを考えることに忙しくなっていると、自分の外から入ってくるものが少なくなる。やると決めたことを自動再生しているだけの状態に陥ってしまう。
自分のなかが動いてないから、自分で動かさなきゃいけなくなる。あるいは動いているフリをしなきゃいけなくなってしまう。

「どちらかが新しいことを言いたくなるまで(同じ言葉を繰り返す)。」とリピテションエクササイズのやり方の説明で書いたが、
これも「演技は相手が何をしたかで決まる」という考え方だ。
つまり、相手の挙動が、自分にリピテションで言う言葉を変えさせるのだ。
同じ言葉の繰り返しに飽きたから変えるのでもなく、誰かを楽しませるために変えるのでもない。
観察していれば、相手の色々な挙動が見えるはずだ。
そのなかで自分がピックアップしたくなるような挙動が出たときに反応する。
「変えよう」とか「言おう」とかの考えなしに「変えていた」というように。
それが衝動に反応する練習のベース。

単に「自分はこう動きたい」よりも「相手がこうだから、それに対して自分はこうしたい」。
前者は相手との繋がりはない。後者にはある。
その繋がりは、共演者皆と、小道具と舞台美術と、衣装と、明かりと音と、そして観客と劇場とも。
「全部意識しないと」と考えると何だか大変そうだが、ひとつひとつがはっきりしていれば、かえってシンプルになる。
繋がりがないと、アイデア勝負になるかもしれない。あるいはキャラクター勝負。
たしかに最初は面白いかもしれない、瞬間的なインパクトはあるだろう。それが求められる現場はある。
でもその面白さはそんなに長くは続かない。

僕の師匠のスコット・ウィリアムズは、挙動にこだわった。
彼はサンフォード・マイズナーから直接学んだのだが、マイズナー自身のやり方を改良した。
その違いのひとつがこの点だ。
なぜ挙動にこだわるか。
いくつか理由はあるのだが一番大きな理由を端的に言うと、
自分に向きがちな意識をより相手に向かわせるためである。
相手と離れていても近くても、
自分の状態(感情)がどうであっても、
相手の挙動を拾おうとすれば、自分の状態だけに耽溺しない。
リピテションをやっていても、もしも自分のことばかり、あるいは主観的なことばかり言ってれば、相手との関係の糸は弱くなり切れてしまう。


そしてこの練習は、良い意味で「手放す」練習にもなる。
シーンや役の「解釈」は腑に落ちているなら、完全に自分からなくなるということはないはずなので、自分の身体を信頼して、気にしなくていい。
そうすれば、相手やそのほか、外からの刺激がちゃんと入ってくるので、それによって自分のなかも変化する。動かされる。
相手にフォーカスすることを繰り返していけば、演技で重要とされている「相手を聞く」ことがやりやすくなることに気付くはず。
また、「自分は今何を感じているのか?」といちいち確認する変な癖もつかない。
「自分が何を感じているか?」気にする人間は俳優だけだ。

聞くということは、相手がセリフを喋っているときだけでなく、自分が喋っているときも行われる。
「この人は自分の言葉をどのように理解しているのか」と確認しながら、言葉を発しているはずだ。
そのときに、セリフの言い方や音色を気にしていたら、
あるいは気持ちを込めようとなんかしていたら、
相手に意識はいかなくなる。
自分のセリフの音を聞きながら喋るのも同じ。
その言葉は相手を動かすためにではなく、自分のために話されている。
これは聞いていれば、結果的に音もおかしくなるので分かる。


だいたいこういう考えをベースとして、リピテションエクササイズをやっていき、
そこから少しずつシーンの状況設定と同じものを付け足していって、実際の演技を構築していく。
リピテション自体、筋トレのように繰り返しやっていって、身につけていくもの。
そこに「台本の解釈」を入れたときに、頭が重くなって倒れてしまわないように、
足腰となる、観察し反応する力をしっかりとやっていく。

RADAのスタジオ。この部屋は新しい。