イギリスで見かける桜は日本のものとだいぶ違う。
近所にも1月に1ヶ月くらい小さな花びらをポツポツとつけていたものがあり、
それと同じ木が4月にまた花を咲かせていた。
花より先に葉をつけ、葉桜のようなかたちで花を咲かせるものもある。
幹の形も、葉をつけた細い人参みたいなものがあったりする。
「日本のものみたいな華やいだ桜が見たいな。
やっぱり桜はパっと咲いて欲しい」
と思っていた。
ところがつい最近、こんなことを知った。
イギリスにある桜は、第一次大戦後から戦前にかけて日本から輸入されたもので、
現在私たちが日本で主に目にするソメイヨシノは、江戸末期に作られ明治以降急速に広まったものなのだ。
ソメイヨシノは育てやすく成長も早く、10年ほどで立派なサイズになり、
葉をつける前に開花し大ぶりな花が咲き揃うので、その美しさと経済的な理由で好まれた。
今や全国の8割の桜がソメイヨシノだという。
つまり、イギリスで見かける、日本のとはちょっと違う桜たちは、もともと日本にあった多様な姿を見せてくれているのだ。
ソメイヨシノは元をたどれば、原木がごく限られた本数になるので、そのほとんどが同じDNAを持っている。
そのため、今ある木はすべてクローンであると言われている。
日本人にとって「花といえば」思い浮かべるのは、桜であることが多い。
桜のイメージは、―パっと咲いてパっと散る。
華やかで、狂騒的で、潔い。死も想起させる。
「満開の森の桜の下」を思い浮かべる人もいるだろう。
そして「同期の桜」のように軍国主義のイメージに利用された歴史もある。
現在を生きる私たちにもそのイメージは、意識していなくても、根底で影響しているのは事実だと思う。
日本の桜のほとんどが同一の種であるからこそ、
一斉に咲いてあっという間に散ってしまうという桜の姿があるのだ。
イングラムというイギリス人が日本からイギリスに桜を移した。
日本で絶滅してしまい、イギリスから逆輸入された品種もあるらしい。
ロンドンで桜を見かけると、ふと歩みを緩めてしまう。